知恵者のグレーテル





知恵者のグレーテル メルヘン

メルヘンのグリム兄弟
8.1/10 - 30
知恵者のグレーテル
昔、グレーテルという名前の料理人がいました。グレーテルはかかとの赤い靴を履いていて、それででかけるときはいつもあっちこっちとまわってみて、(私ってなんてきれいなの)と思いました。家に帰るととても嬉しいのでワインを一口飲み、そうすると食欲が出てくるので、自分が料理したものの一番いいものを味わい、お腹がいっぱいになって、「料理人って食べ物の味を知らなくちゃいけないのよ」と言っていました。

ある日、主人がグレーテルに言いました。「グレーテル、今晩お客が来るから、ニワトリを二羽おいしく料理しておいてくれ」「はい、わかりました、ご主人さま」とグレーテルは答えました。ニワトリを殺し、湯通しして羽根をむしり、串にさして、夕方になってきたので、丸焼きにするため火にかけました。ニワトリは茶色になり始めほぼできあがりましたが、お客はまだ着いていませんでした。

グレーテルは主人に呼びかけました。「お客さんがこないんなら、ニワトリを火からおろさなくちゃいけないんだけど。すぐ食べないともったいないわ、今ちょうど汁気があって一番おいしいところなのよ」
主人は「そうだな、おれが走ってお客をつれてこよう」と答えました。

主人が背を向けるとすぐ、グレーテルはトリの串をわきにおろして、(火のそばにこうして立っていたら、汗が出て喉が渇いたわ。主人たちはいつ戻るかわからないのよ。その間に地下室にひとっ走りして一杯飲もうっと。)と思いました。そこでグレーテルは駆け下りて、ジョッキを口に持ち上げ、「グレーテル、あなたを祝して」と言って、ぐいっと飲みました。(ワインはつながって喉を流れなくっちゃ、途切れたらだめよね)と考え、またグィグィとたっぷり飲みました。

そうして出て行ってニワトリをまた火にかけ、バターを塗り、ご機嫌で串を回しました。ところが、焼けた肉がとてもよい匂いだったので、グレーテルは(しくじっているかもしれないわ。味見してみなくちゃ!)と思いました。肉を指で触って、「まあ、とてもよくできてるわ。本当にすぐ食べなくっちゃもったいないこと。」と言いました。窓に走っていき、主人がお客と一緒にこないかと見ましたが、誰も見えませんでした。トリのところに戻って、(手羽の片方がこげてる!そこはとって私が食べた方がいいわ。)と考えました。そこでグレーテルは手羽のところを切りとって食べ、おいしく味わいました。

食べ終わると、(もう一つの手羽も食べなくちゃ。そうしないとだんなが何か足りないと気づくもの。)と思いました。二つの手羽を食べてしまうと出て行って主人を探しましたが、見えませんでした。するとふいに(ひょっとして、二人はまるきり来ないのかもしれない。どこかよそへ行ったのかも?)という気がしてきました。

そこでグレーテルは「やあ、グレーテル、楽しくやれよ、一羽のトリはもう包丁を入れ傷つけた、もう一杯飲んで、そいつをまるまる食べちまえ、食べたら気が休まるだろ。神様の素晴らしい贈り物をなんでむだにする?」と言いました。そこでグレーテルはまた地下室に駆け込んで、ゴクゴクとすごい飲みっぷりで一杯飲み、大喜びしながらトリを一羽平らげました。一羽食べてしまっても主人はまだ帰ってきませんでした。グレーテルはもう一羽の方を見て、「一羽がいるところにもう一羽もいなくちゃね。二羽で一組だもの。一方に正しいことはもう一方にも正しいものよ。もう一杯飲んでも悪くないわね」そこでたっぷりもう一杯やって二つめのトリを一つめのトリに仲間入りさせました。

グレーテルがちょうどおいしく食べているとき、主人が帰ってきて、「グレーテル、急いでくれ、お客がおれのすぐあとに来るんだ!」と叫びました。「はい、すぐお出しします。」とグレーテルは答えました。その間に主人は食卓の支度がきちんと準備されているか見に行き、トリを切るのに使う大きな包丁をとって階段で研ぎ始めました。

まもなくお客が来て、礼儀正しく丁寧に玄関の戸をたたきました。グレーテルは走って誰が来たか見に行き、お客を見ると、指を唇にあて、「しーっ!しーっ!速く逃げて。主人が見つけたら、大変よ。主人はあなたを夕食に招いたけれど、本当はあなたの両耳をそぎとるつもりなのよ。ほら、その包丁を研ぐ音が聞こえるでしょ?」お客は研ぐ音が聞こえたので、大急ぎで階段を下りて逃げていきました。

グレーテルはのほほんとしていませんでした。喚きながら主人のところへ駆けて行き、「ご立派なお客様を招いたこと!」とどなりました。「はぁ、グレーテル、どういうことだね?」「ええ!」とグレーテルは言いました。「出そうとしていたトリを皿から二羽ともとって、持ち逃げしたんですよ!」「そりゃうまいことをやったな!」と主人は言って、みごとなトリを惜しみました。「ああ、おれに一羽だけでも残しておいてくれたら、おれも食べることができたのに。」

主人はお客を、待ってくれ、と呼びましたが、お客は聞こえないふりをしました。それで主人はまだ包丁を手に持ったまま、追いかけて、「一つだけ、一つだけ」と叫びました。二羽とも持っていかないで一羽は残しておいてくれ、という意味です。ところが、お客は、耳を一つだけ、と言っているものとしか思いませんでした。それでお客は、両耳ともしっかり家に持ち帰ろうとして、尻に火がついているかのように駆けていきました。


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